ゲーム開発者が偉ぶるブログ

ゲーム開発のビジネスやマネジメントについて日々思うことをあれこれ偉ぶって書き綴ったもの。

ペルソナ5の実況禁止について

アトラスの作品の中でもストーリーがプレイ動機に大きく寄与し、ネタバレが致命的な内容になっているタイトルは、ゲーム実況に対して何かしら自粛を求める動きを見せてきた。
「キャサリン」で終盤の実況動画の自粛を求めたのが始まりだったように記憶している。

アトラス作品では無いが、同様のものに「ダンガンロンパ」がある。
ダンガンロンパスパイク・チュンソフト販売だ。
スパチュンは「えどさん"&ふみいち」とガッチリ組んで実況媒体を宣伝に活用するなど、どちらかというと実況文化を有効に活用しようとしている企業だ。
それでも、ダンガンロンパは推理モノであり、そういったネタバレによりプレイ動機が一気に失われるようなタイトルに対しては実況の自粛を求めていることが分かる。
ダンガンロンパシリーズは1章のみ実況を公認、以降は自粛を求めていたりする)

さて、今回「ペルソナ5」ではオープニング以外の実況、SNSでのネタバレを固く禁止しており、ニコニコ動画や生放送での実況に対してはアカウント停止措置が行われているという話だ。

その様子に対してのユーザーの意見の中に以下のようなものがある。

 ●実況を禁止したところで ”じゃあ買おう” とはならないよね。
  売り上げが上がる訳じゃない。アトラスは勘違いしている

 ●実況は宣伝にもなっている。
  実況動画を見て購入を決めた人間も少なくない

勘違いしているのはどちらだろうか?

まず、実況を禁止したことで動画を楽しみにしていた視聴者がゲームを購入するかどうかは「関係が無い」。
そもそもコンテンツを楽しむためにお金を支払うのだ。
お金を支払っていない人間はユーザーでもお客様でも何でもない。当たり前のことだ。

コンテンツにはゲームプレイで得られる体験があり、物語も当然含まれる。
お金を払っていない人が、実況禁止によってお金を払うか払わないかはまた別の話だ。
お金を払った人が楽しめたら良い、それだけのことだ。
だが逆にはっきりと言えるのは、実況動画があれば「お金を払わなくても楽しめる人が増える」という面だ。ただこれもまた、その善し悪しについては別の話だ。

それから「実況は宣伝になってるだろ」という意見だ。

それを判断するのは販売している側であってユーザーではない
実況の存在が購買者を減らしているかどうかも、増やしているかどうかも、はっきりとした数字では分からないのであれば「宣伝になっている」という主張は説得力が全く無い。
しかし販売側が「宣伝になる」と判断すれば「公認」の形を取るだろう。
その最も顕著な例がTVCMだ。
TVCMに高いお金を払って、販売本数にどれだけ貢献しているかはハッキリとは分からない。が、これまでのリリースの積み重ねから広告費にどれだけかけるかを判断する。
(ちなみにスマホアプリであればユーザー数やアクセス数の増減が数字に直に現れるためウェブやCMでの広告の効果が明確だ。こちらはパッケージソフトと比べて性質が随分と変わる)

話が逸れたので戻そう。

例えば劇場映画を撮影してまだ上映中の時期にネットにアップした者がいたとして「ネットに上がらなかったからといって、劇場に足を運ばないでしょ?」という主張は支離滅裂な意見だ。TVアニメやコミックをネットにアップしている場合も同様だ。

もちろん、昨今の風潮としてはゲーム実況文化にゲーム業界が寄り添っていく流れはある。
PS4やXboxOneでのシェア機能が最も顕著な例で、スパイクチュンソフトの姿勢(国内外の"評価は高いがマイナーなゲーム"をローカライズ等で多く扱うことからも、知名度を高めることが重要視されるタイトルが多いのだろう)、任天堂アフィリエイトプログラムの例もある。

だがシェア機能に関してはゲーム開発側が場面ごとに録画を許可するかを決められる。これは表向き実況文化に寄りそう形だが、メーカー管理下の中で作品を守っていく動きでもある。
そもそもパブリッシャーが公式にゲーム実況を許可しているタイプのゲームには、ネタバレが致命的になるようなタイトルは今後も含まれないだろう。

海外のタイトルでも、Wicher 3のようにプレイヤーの行動に幅があり選択によって結末が変わるタイプのものは公認され、Assasin's Creed 3のように一本道のストーリーのものは自粛をお願いする例というのもあった。これは単なる余談だが。

何にせよ、アトラスの動きは「コンテンツを強く守ろうとする動き」に感じるし、他の大手企業が大々的にはやってこなかった事例として純粋に興味深い。
そしてその「ペルソナ5」は、実際にはかなり好調な売れ行きを示しているという話だ。
勿論、そこに実況禁止が影響しているかは分からない。
どちらかと言えばPS4の国内タイトルが未だ充実していないこと、過去のシリーズ‥特にペルソナ4の評価が非常に高いこと、FF15への期待が高まっていたユーザー層が延期によってペルソナ5に手を出したという偶然の追い風‥こういったあたりの影響が強いのではないかと思う。
ペルソナ5がシリーズ初プレイだ」という人間が身近にいれば、このあたりが理由ではないか?

私は実況動画の文化は否定しないし、ゲーム業界と協力関係となれば良いと思うが、一方で物語重視のコンテンツは断固として守っていけば良いと思う。
それに、ダンガンロンパやその他の自粛を求めるタイトルについて、アカウント停止などを行わずとも大半のユーザーがちゃんとその気持ちを汲んで受け入れてくれているようにも感じる。

つまるところ、企業側が実況を許可したり禁止したりも含めてユーザーと良い関係が築かれた上での実況文化がこのまま浸透していけば良いなと思う。

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